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就職ノウハウ

法科大学院修了生の就職活動と「法務派遣」

Q.就職活動がうまくいかないのですが、一旦、企業の法務部門で派遣として働いた方がいいでしょうか?

A.

近年、法科大学院修了生において、企業の法務部門で一旦派遣として働き、職歴を付けてから就職活動を行うという新たなルートが一部で確立されつつあります。本記事では、この法務派遣ルートを選択することのメリット・デメリットをまとめて行きます。

 

 

法務派遣を経ての就職活動とは?

法科大学院修了生が就職活動時に法務求人に応募を行う場合、法務実務経験がないことを理由に落選になるケースが多々あります。

こうした、「実務経験を積むために実務経験を求められる」という状況は、「服を買いたいのに、服を買いに行くための服(出かけるのに恥ずかしくない服)がない」というジレンマと非常によく似ています。むしろ、後者は恥を忍べば乗り越えられるものであることを考えると、法科大学院修了生の置かれた状況の方が、より閉塞感が強いとも言えそうです。

 

近年、こうしたジレンマを乗り越えるべく、一旦、派遣という雇用形態で実務経験を積み、その実務経験を武器に就職活動を行うという選択肢をとる法科大学院修了生が増えて来ています。

 

■一般的な法務派遣求人(未経験可)

業務内容

契約書審査、契約書作成、法務相談、コンプライアンス関連業務、役会議事録作成、契約書管理・押印管理その他総務業務等

※派遣先により異なります。

給与

時給制、フルタイム就業時で平均20万円強/月

※担当する業務の責任・難易度により異なります。

福利厚生 雇用保険、社会保険(法令に則り、契約期間2ヶ月以上から加入)
勤務時間

いわゆる、フルタイムが原則(9時~18時、10時~19時、9時~17時など)。一部、午前のみ・午後のみといった案件もあります。

※ 残業は、ほぼない案件がほとんどです。

勤務日数 平日週5日が原則。一部、週2~3日という案件もあります。
派遣期間

計1ヶ月~3年

※派遣先の状況、当人のご意向や派遣先からの評価により増減します。

企業規模 上場企業、上場準備中企業、有名企業のグループ会社などが多いです。
業界 特に偏りはありません。メーカー、IT、小売、物流、エンタメなど幅広い業界に派遣されています。

 

 

法務派遣の経験は本当に武器になるのか?

では、実際問題、法務派遣を経た法科大学院修了生は、有利に就職活動を運べているのでしょうか?

弊社では4年前から労働者派遣事業許可を取得して、法科大学院修了生を企業の法務部門に派遣していますが、弊社の実績で見たときに、6ヶ月以上の法務派遣経験をお持ちの法科大学院修了生の書類選考通過率は、完全未経験の法科大学院修了生の3倍を優に超えています

これは、履歴書の職歴欄が“職歴なし”という記載だったのが、“株式会社●●/法務部門(派遣)”という記載に変わり、職務経歴書に法務部門での職歴詳細(契約書審査●通/月、~に係る法務相談、契約書管理etc.)を記載できるようになることで、書類の見栄えが格段に上がっていることの影響だと考えられます。

 

また、これは個々の年齢・保有スキル等にもよりますが、応募できる求人という面でも、6ヶ月以上の法務派遣経験者で平均1.5倍ほど増加しています。

さらに、内定獲得時の提示年収という面では、6ヶ月以上の法務派遣経験者の平均初年度年収は、完全未経験の法科大学院修了生と比べて50万円ほど高いというデータがあります。

 

「そんなに短い実務経験期間で?」、「しかも、非正規雇用での経験で?」と驚かれる方もおられるかもしれませんが、それだけ、

採用する企業側にとって、“社会人経験も含め、全くゼロ”であることと、“少しでも法務実務経験がある”こととの間には、安心感・期待感という面で、非常に大きな差があるということだと思います。

 

 

法務派遣のデメリット

ここまで、法務派遣が就職活動時の大きな武器になるというお話をして来ました。お金を稼ぎつつ、就職活動時の武器を積み上げて行けるという意味で、メリットは小さくないと思います。では、この「法務派遣」という選択肢にデメリットはないのでしょうか?

 

正直、決定的なデメリットはないと考えていますが、強いて言えば、「法務派遣開始後、当初の数ヶ月は就職活動がしづらくなる」という点が挙げられると思います。

法務派遣開始に先立ち、派遣先企業との間で、契約書上または口頭上、「大きな問題がなければ、6ヶ月ほどは継続的に就業する」という合意を行うケースが少なくないため、当該期間を意識した就職活動となることが多いためです。そのため、法務派遣開始後3~4ヶ月ほどは仕事に専念し、その後に就職活動を開始(再開)して内定を獲得し、派遣期間6ヶ月を満了したタイミングで内定先企業に正社員として入社するというパターンが割と一般的なものとなっています。

 

そのため、『どうしても、今から3~4ヶ月以内に正社員として就職したい』という方にとっては、法務派遣が適切でない選択肢となる可能性があります。

 

 

法務派遣求人では実務経験は求められないのか?

ここまで法務派遣のメリットとデメリットについて語って参りましたが、ここでふと、こんな疑問を持たれる方もおられるのではないでしょうか。「法務派遣求人では実務経験は求めれないのか?」と。

 

この点、法務派遣を検討する企業の大多数は、やはり実務経験者を求めているのが実状です。正社員求人のときと同様、『実務経験がない=業務が遂行できない』と思われているためです。加えて、未経験者を一から教育する負担についても懸念されることが少なくありません。

一方で、あえて派遣という雇用形態で働きたいと考える法務経験者は市場にほとんどいません。かつては、派遣という雇用形態で働くことのメリットとして、勤務時間・勤務日数の短縮化などに代表される多様な働き方の実現が挙げられましたが、現在では正社員のままで、そうした多様な働き方の実現ができるようになって来ているため、正社員で転職できる人が、あえて派遣で働くメリットが小さくなったことが理由として考えられます。

 

そのため、法務派遣求人に応募したときに法務経験者と競合する可能性はかなり低く、それゆえに、正社員求人への就職活動時よりも、就業先を見つけるハードルは下がると言えます。

※もっとも、未経験者に対する上述の懸念は依然として残るため、派遣開始前に弊社でしっかりと実務研修を施すことを、派遣受け入れの条件とする企業が大多数です。

 

 

法務派遣と相性の良い法科大学院修了生

上記も踏まえ、法務派遣と相性の良い法科大学院修了生は以下のような特徴の方です。

 

①年齢、学歴に自信のない方

職業安定法の要請上、企業側は応募者の年齢・学歴を認識しないまま、派遣受け入れの是非を決めなければなりません。そのため、就職活動時に年齢・学歴等の相対評価を理由に苦戦している法科大学院修了生との相性はとても良いと言えます。

 

②一刻も早く一定の実務経験や収入を得たい方

複数回の面接や筆記試験が課せられる正社員求人と異なり、派遣求人では、スキルシート(匿名の簡易版履歴書)の提出+職場訪問(面談込み)1回のみで、派遣受け入れの是非を決めるという企業が大多数です。そのため、応募から就業開始までの期間も2週間~1ヶ月ほどと、通常の正社員求人よりも早い傾向があります。その面で一刻も早く稼ぎ始めたい方、一刻も早く実務経験を積みたい方との相性は良いと思います。

 

③周囲と溶け込める方

派遣前に弊社で研修を行いますが、研修だけで全てがカバーできるわけではないため、派遣開始後に周囲から教えてもらう場面は少なからずあります。

派遣先社員の人の輪に溶け込める方(一緒にランチに行ったり、雑談に積極的に混ざれる方)は、周囲から好かれ、可愛がられ、たくさんの指導を受けることができますが、愛嬌がなく孤立しがちな方、自ら孤高を貫くタイプの方は、周囲も指導がしづらくなり、あまり指導を受けられない結果、仕事ができるようにならず、周囲からの評価が上がらないという悪循環に陥るおそれがあります。

何も話し上手である必要はありませんが、話に混ざりに行く姿勢、仲良くなる姿勢を示せる人の方が、圧倒的に相性が良いと思います。

 

 

本日は、「法務派遣を経ての就職活動」という選択肢について解説しました。過去には、38歳職歴なしの法科大学院修了生が1年の法務派遣を経て就職した事例もあるなど、就職活動に苦戦している方にとっては、大きな希望となる選択肢になり得ると思います。

本記事をご参考に、こうした選択肢についても、ぜひ検討してみてください。

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『法務派遣のご案内』

『法科大学院修了生の就職活動とアルバイト』

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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