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就職ノウハウ

法科大学院修了生のための面接ケーススタディー(前編)

Q.就職活動をしたことがないため、企業の面接のイメージが湧きません。(前編)

A.

学部新卒時に就職活動を経験していない法科大学院修了生にとって、企業面接は未知の領域です。

そのためか、せっかくが書類選考を通過したにも関わらず、面接選考で芳しくない評価を受ける法科大学院修了生は少なくありません。

本記事にて、法科大学院修了生が企業面接で頻繁に受ける質問への好ましい回答例・好ましくない回答例等を紹介し、企業面接イメージの具体化のお手伝いが出来たらと思います。

 

 

【質問case1】これからも司法試験を受験する意向はありますか?(応募者が不合格者の場合)

■評価を下げがちな回答例

「せっかく、時間とお金を投じて勉強をして来ましたので、受験資格がある限り、出来れば受験したいと思います。」

 

■好ましい回答例

「自分の中で、司法試験にはしっかりと見切りをつけたので、今後、受験するつもりはありません。」

 

<解説>

法科大学院修了生が企業の面接を受ける際に、かなり高い確率で受ける質問になります。

企業でのキャリアを歩む覚悟が固まっているのか、はたまた、第一志望は法曹にあり、ある種、腰掛け的に企業で働こうとしているのかを確認する意味合いがあります。

法科大学院修了生が企業に採用される場合、十中八九、ポテンシャル採用(経験ではなく、将来性に着目しての採用)枠での採用になりますが、ポテンシャル採用枠で採った人材に対しては、入社後すぐの貢献は見込みづらく、一定の育成期間が不可欠なため、「育成期間経過後は、それまでの分を取り返すよう、できるだけ長く会社に貢献して欲しい」という期待がかけられています。

そんな中、育成期間が経過する前または育成期間経過後ほどなくして、司法試験に合格して会社を辞める可能性のある人材は、ポテンシャル採用枠で採用するには不向きだと捉えられる傾向があります。

そのため、選考通過のためには、法曹への未練がないことを明確に表明した方が絶対的に有利ですし、そもそものところ、「法曹への未練は捨て去った」と心から言えるくらいの心境になってから、就職活動を開始した方が、ご自身も後悔しないと思います。

 

 

【質問case2】なぜ、司法試験へのチャレンジをやめるのですか?(不合格者の場合)

■評価を下げがちな回答例

「自分の能力では受からないと見切りをつけたからです。」

「改めて考えたときに、自分には組織の中でチームワークを発揮して働く働き方のほうが合っていると感じたからです。」

「改めて考えたときに、自分は法的問題が起きてから解決を図る弁護士よりも、法的問題の予防を行う仕事のほうが合っていると感じたからです。」

 

<解説>

こちらも、法科大学院修了生が企業の面接を受ける際に、高確率で聞かれる質問です。

強い気持ちで法曹を志した法科大学院修了生にとって、司法試験からの撤退は、人生における非常に重要な決断になります。その、人生の重要な決断をふわっとした思考で決めてしまう方なのか、明確な判断軸を持って深く思考して決められる方なのかを見極める意図があります。

 

例えば、「自分の能力では受からないと見切りをつけたから」というのは、司法試験に真剣に打ち込んでいた方であれば、十分にあり得る理由だと思いますが、単にそれだけを伝えてしまうと、「司法試験合格には能力が必要だけど、企業内の仕事をするのにはそれほど能力は必要ない」と言っているのと同義になってしまいます。そのため、「仕事のイメージが具体的にないまま企業内での仕事を軽視している。現状が困難だからと安易に就職に逃げている。」といったネガティブな心証を与えることが懸念されます。

 

司法試験合格に必要な能力、仕事の遂行に必要な能力を具体的に指摘した上で、前者の能力が自分に欠けているが後者の能力を生かし会社に貢献して行けると考えた旨を伝えたいところです。

 

また、「改めて考えたときに企業で働く方が自分に合っていると感じた」といった方向性での回答は、採用担当者からすると、なぜ、“法曹を目指す”という人生の重大な決断を行う際にそこに思い至らなかったのか(今さら気づいたのか)という疑問を生じさせてしまうおそれがあります。その結果、「人生の重要な決断をふわっとした思考で決めてしまう人材」というネガティブな心証に繋がるおそれがあります。

この種の質問への回答は、論理的な説得力というよりは、「聞き手に共感してもらえるか否か」が全てですので、ご自身に起こった出来事、そのときの感情の揺らぎなどを具体的に開示しながら、「なるほど、そうした状況であれば、自分も同じ決断をするかもな」と面接官を共感させることが大切です。例えば、

 

 

[出来事]

・親を通じて、仲の良かった同級生(新卒入社7年目)が結婚するという話を聞いた。親はどこか羨ましそうだった。

 

[感情の揺らぎ]

・キャリアにおいてもライフステージにおいても同級生に大きく後れを取り、親孝行一つ出来ていない自分が、情けなく、恥ずかしく感じた。

・このまま年齢だけを重ねて結果を残せなかった自分を想像したときに、とても恐くなった。

・一方で、ここまで多大なお金と時間を投資して司法試験に賭けていたので、結果を残さないままにチャレンジをやめることが、ここまでの自分の人生を否定するようで悔しい気持ちもあった。

 

 

こういったことを自己開示した上で、「さんざん悩んだが、最後は、“自分の人生を一早く前に進めたい”思いがまさった」ことを伝えれば、その決断を否定できる面接官は、そうそういないと思います。

やはり、ポイントは、司法試験撤退という結論に至るきっかけとなった具体的な出来事と、その時のご自身の生の感情の開示にあると思います。

 

 

【質問case3】法務実務は未経験だと思いますが、どのように会社に貢献できますか。

■評価を下げがちな回答例

「司法試験を通じて培った法律知識と論理的思考力、事案分析力を生かして会社に貢献します。」

 

■好ましい回答例

「正直、おっしゃるように実務未経験ということで、入社早々に貴社に大きな貢献するのは難しいと思いますので、入社当初は、先輩に代わって積極的に電話に出る、自分で出来そうな雑務はどんどん引き受ける等の小さな貢献を積み重ねて行きたいと思います。また、司法試験を通じて、“法律関連の文書を素早く読み解く力、自分自身の理解を文章としてアウトプットする力”は身に着いたと思いますので、法律関係のリサーチ業務やレポート業務であれば、早期に力になれるのではと考えています。ただ、いずれにせよ、私のような立場で入社する場合、早期に成長することが何よりの貢献に繋がると思いますので、現状の自分で貢献できるポイントを探りながら、どんどん、見て聞いて、先輩から業務を吸収したいと思います。」

 

<解説>

実務未経験という法科大学院修了生の泣き所を突いた、最も答えづらい部類の質問の一つになります。

そして、“評価を下げる回答例”でご紹介した回答内容は、このシビアな質問に対して、何かを絞り出さなければという思いで、少なくない法科大学院修了生が披露するものです。

しかし、企業の選考において、「~力がある」「~ができる」と言うためには、原則として実務経験による裏付けが求められますので、そうした裏付けがないままに「論理的思考力や事案分析能力がある」と言われても、説得力を出すのは難しいと思います。

また、それらの凄そうなスキルが、どう会社の貢献に結びつくのかの説明も欠けているため、結局、どのように貢献するのかという問いに答えていないことになります。

さらに、「法律知識」については、法科大学院修了生が学ぶ六法領域と企業法務実務で扱う法律領域の重なる部分が少ないため、法科大学院修了生の法律知識そのものが会社の貢献に繋がる場面は、とても限定的と言えます。そのため、「法律知識を使って貢献」という発言自体が、企業法務実務の具体的イメージの欠如を示しているとネガティブに判断されるおそれがあります。

 

この種の質問で重要なのは、

①自分自身の立ち位置を正しく理解していること

②企業法務実務のイメージを出来る限り具体的に描いていること

③ポテンシャル人材らしい意欲の強さ・モチベーションの高さを示すこと

 

の3点です。司法試験受験を通じて得たスキル・ノウハウ・ナレッジは何なのか?企業法務実務に必要はスキル・ノウハウ・ナレッジは何なのか?を棚卸しした上で、すぐに活用できそうなもの、少し時間をもらえれば活用できそうなもの、かなり頑張って高めなければならないものを整理し、自分の言葉で具体的に伝える。そこに、自分自身の意欲の強さ・モチベーションの高さを乗せて行く。

このようなスタンスで回答することで、この種のシビアな質問に対しても、堂々とした回答を繰り出すことが出来るようになると思います。

 

 

本日は、法科大学院修了生の面接で頻出の質問事例と、各質問に対する考え方を紹介してみました。よろしければ、面接のイメージ作りや面接対策のご参考になさってください。

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『法科大学院修了生の面接で聞かれる質問』

『法科大学院修了生の面接失敗15パターン』

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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