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就職ノウハウ

法務求人における業界選び

Q.法務職での就職を希望していますが、どのように「業界」を選んだらよいでしょうか。

A.

就職活動と言えば、“業界研究”から始まるというイメージがあるためか、就職活動を開始した法科大学院修了生とお話をしておりますと、「まだ業界を絞れていない」、「業界選びをどのように行えばいいかわからない」といった、お悩みの声をしばしば耳にします。

本記事では、法務求人における業界選びの考え方について解説していきます。

 

 

就活生が「業界選び」を行う理由

そもそも、一般的な就活生が「業界選び」に注力するのはなぜでしょうか。大きく2つの理由があります。

 

1.応募先企業選びの指針を定めるため

一般的な就活生、すなわち、新卒枠で就職活動を行う大学生には、現状、無数の求人選択肢があります。

(リクルートワークス研究所の調査によると、来春 2022 年 3 月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人総数は67.6 万人分)

そのため、新卒の学生においては、「選択肢が多すぎて、どこに応募していいかわからない」という事態が生じがちです。だから、まずは、業界という少し大きな単位で研究を行い、どの業界への応募に力を入れるかを定め、選択肢を絞っていく作業が必要になります。

 

2.自身の志望度を企業側に伝えるため

また、現状、新卒枠での採用は、総合職採用が大多数です。すなわち、「特定の職種の仕事を行ってもらう」ことを前提とした採用枠ではなく、「応募先企業内にあるあらゆる職種・分野に関わる仕事をローテーションで担当する」ことを前提とした採用枠に応募するということになります。

そのため、志望理由を企業に伝える際に、「こんな仕事を任せてもらえそうだから」と、具体的な仕事内容に言及することが難しいのが実状です。

だからこそ、業界への興味関心、業種への興味関心を前面に押し出して、自身の志望度を伝えるより他ないということになります。

 

新卒の就活生が、かくも、業界選びや業界研究に力を入れている背景には、こうした事情があります。

 

 

法務職に応募する法科大学院修了生は業界選びに注力すべきか

それでは、法務職に応募する法科大学院修了生は、一般的な就活生同様に、業界選び・業界研究に注力すべきなのでしょうか。個人的には、少なくとも内定を得るよりも前の段階(応募検討時、選考中etc.)では、そこまで大きく注力する必要はないと考えています

まず、求人数という切り口から見たときに、未経験から応募可能な法務職の求人はそれほど多くありません。そのため、「業界を絞らないと、選択肢が多すぎてどこに応募したらよいかわからなくなる」という事態は、法務職に応募する法科大学院修了生においては生じないと言えます。

また、“法務職”と職種が指定されている採用枠への応募となるため、「法務がやりたい」、「法務の中でも、こんな仕事がやりたい」と、具体的な仕事内容に言及して、志望理由を語ることが可能です。ひたすら、業界への興味関心で押し切るしかない新卒就活生とは、その点で大きな違いがあります。

 

一方で、「法務への思いばかりを語り、応募先企業の展開する事業への興味関心を示せない応募者」に対しては、総じて、ネガティブな評価が下される傾向があります。

そのため、まずは、求人企業の展開する事業内容への興味関心を想起するための「企業研究」に注力し、そこから付随的に「業界研究」に広げて行くくらいのスタンスで、業界研究に臨むのがよいと思います。

 

 

法務職と業界との関係

ここまで、業界研究の意義や法科大学院修了生が業界研究に割くべき力の度合いについて解説して来ました。総じて、「法科大学院修了生の就活においては、それほど業界を気にする必要はない」という内容になっていたと思います。

もっとも、内定を受諾するか否かという段になったときには、人によっては、“業界選び”が重要になって来る可能性があります。なぜならば、「業界」により、積める法務経験の種類・度合い、法務部門に求められる判断スタンスが異なる場合があるからです。

個人的に、様々な業界の法務業務に触れた経験上、法務業務と業界との関係について、以下のように整理しています。

 

 

(1) 業務内容自体には、業界による違いはほとんどない(基本的には、契約書審査・作成、法律相談、コンプライアンス対応、訴訟対応、株主総会対応を担当する)

 

→法務経験一般を積みたいだけであれば、原則、業界にこだわる必要はあまりない。

 

 

(2) 業界により、契約書審査で頻出する契約類型や、法律相談・コンプライアンス対応等で取り扱う法令が異なる

 

→関心の高い契約書類型・法令がある場合には、応募先企業の事業構造を精査し、それらを取り扱う場面が多いかどうかを検討すべき。

 

 

(3) 業界により、規制法令の多さ・厳格さに違いがあり、その違いにより、法務部門内における、コンプライアンス関連業務の割合の多寡が左右される

 

→コンプライアンス対応に強みを持った法務担当者になりたければ、金融・製薬等の法的規制の厳しい業界を第一に検討。逆に、コンプライアンス一辺倒になりたくなければ、これらの業界は避ける。

 

 

(4) 業界柄、紛争の多い業界があり、そうした業界では、紛争対応・訴訟対応業務の割合が増える

 

→訴訟対応に関心が強ければ、紛争・トラブルが多そうな業界(一般消費者を相手に事業を行う業界等)にチャレンジする

 

 

(5) 営業担当者の貢献度(ストレス負荷)が高い業界では、リスク回避よりもビジネス推進を重視する判断が求められる風潮がある

 

→グレーゾーンを攻めるというよりも、リスク回避の堅実な判断を重視したければ、営業負荷が強すぎない業界(客層が穏やか、一度獲得した顧客との継続取引が期待できる業界)を選ぶ

 

 

このように、行く業界により、法務としての在り方が異なって来るところがありますので、内定受諾の有無を決める最終局面では、「なりたい法務像」から逆算し、どのような業界に進めばよいかという観点も入れて、検討してみるとよいと思います。

 

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『応募先企業の選定方法』

『法科大学院修了生の就職進路』

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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