会員登録

就職ノウハウ

司法試験に三振すると、どんな未来が待っているか

Q.司法試験に三振しました。三振者の就職市場での評価を教えてください。

A.

司法試験の受験資格喪失を指して、『三振』と呼ぶ方がいます。かつての「修了後5年以内に3回まで」という受験回数制限と野球の三振にかこつけたネガティブな名称として知られています。そして、三振した法科大学院修了生の中には、「自分には、ろくな就職先がない」、「明るい未来は望めない」と絶望している方も少なくないようです。

 

今回は、司法試験に三振したときに企業からどのような評価を下されるのか、そして、その後にどんな未来が待っているのかを解説して行きます。

 

 

司法試験を三振した方に対するネット上の厳しい風当たり

2ちゃんねる(現在は「5ちゃんねる」に名称変更したようです)の司法試験板などを覗きますと、司法試験の三振者に対するネガティブな言葉で溢れています。掲示板の特性上、仕方のない部分もあるのだと思いますが、それは、罵詈雑言とも呼べる内容で、「まともな就職ができるわけがない」、「社会的落伍者」などといった辛辣な言葉が書き連ねられています。

 

そして、そうした言葉を見た方の中には、自分自身の状況に絶望し、「一度、司法試験に足を踏み入れたからには合格するまで受け続けるしかない」と思いこんで、再度、法科大学院に入学したり、予備試験の道に進む方が少なからずおります。また、「資格を取ればなんとかなるはず」と、司法書士などの別の法律資格に手を出す方もいます。人生に絶望して、何の気力も湧かなくなり、引きこもってしまう方もいると聞きます。

いずれも、正しい情報を元に、本心から“選び取った”のであれば、それぞれ立派な選択になり得ると思いますが、もし、誤った情報に基づく強迫観念から、そうした道を選んだのだとしたら、後々の後悔に繋がるおそれがあります。

 

 

 

司法試験に三振すると何がいけないのか

司法試験に三振した方に対して挙げられるネガティブな要素としては、主に以下のようなものがあります。

 

 

・年齢が高い

・職歴がない

・司法試験に合格していない

 

 

では、これらの事実は、具体的に「就職」にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

 

■年齢が高く、職歴がないという要素がもたらす影響

司法試験で三振した方は、就職活動を始める頃には30歳を超えているケースがほとんどです。そして、その大多数は職歴、すなわち、職務経歴がありません。

法科大学院修了生の就職活動と年齢』でもご紹介しましたように、企業が未経験者を採用する場合、育成期間の長さ・頭の柔軟さ(吸収力)などの観点から、出来るだけ若い人材を採用したいと考える傾向があります。

 

そして、世間一般では、「職歴のない新人」と聞いたときに、22歳の大学生をイメージする方が多いですので、イメージの中の人物像よりも8歳以上年を重ねているという事実は、就職活動における選考上、どうしてもネガティブに作用するところがあります。

また、「職歴のない法科大学院修了生でも積極的に採用を検討する」という企業は近年増加傾向にありますが、そうしたチャンスの大きい求人の選考を争う際にも、他のライバルとなる法科大学院修了生よりも年齢が上となることが多く(弊社に登録中の法科大学院修了生の平均年齢は28.5歳)、そこでも、年齢の問題が尾を引きます。

 

では、職歴については、どのように作用するのでしょうか。企業が、法科大学院修了生を採用するときに一番不安に感じるのは、「社会性・最低限のビジネスマナー」を備えていないのでは?という点に対してです。

そして、その裏返しとして、働いていた経験がある=「働く人」である自分たちと同じ価値観を持っている、社会がどのような仕組みで動いているかを理解している≒社会性・最低限のビジネスマナーを備えていると考える企業が非常に多いという現実があります。

 

実際、「社会人経験のある法科大学院修了生であれば採用を検討する」と、“職歴があること”を応募要件とする企業は少なくありませんし、特にそうした応募要件を設けない企業でも、大多数の企業が“職歴のある”法科大学院修了生を優先して採用・選考しています。

 

つまり、職歴があることで、応募できる求人が増え、応募した後も選考が有利に進むということになります。

もっとも、近年、社会人経験を経て法科大学院に入学する方は大幅に減少していますので、同じ法科大学院修了生同士の競争において、社会人経験がないことが相対的に不利に働く場面は減って来ています。

 

 

■司法試験に合格していないという事実がもたらす影響

ここまで、年齢面と職歴の有無が法科大学院修了生の選考に与える影響について見てきました。それでは、全てを投じて来たはずの司法試験に合格していないという事実は、どのように選考に影響するのでしょうか。

 

➊選考評価への影響

司法試験に三振した方の多くは、「せめて司法試験に合格していれば、これまでの経歴に説明がつくのに…」という想いを抱いている方が少なくありません。また、司法試験受験界では、法科大学院の教授、予備校の講師、法科大学院の同級生・先輩・後輩その他、周囲にいる全員が“合格>不合格”という絶対的な価値観の元で日々を過ごしていますので、司法試験受験以外の場面でも、この絶対的な価値観が作用していると考える傾向にあります。

 

しかし、「司法試験の問題を解く」という仕事は企業内には存在しませんので、司法試験の合否が、仕事の出来不出来に直接的に影響する場面というのは存在しません。もちろん、司法試験に合格していることは、一種の『優秀さ』を示す根拠となりえますので、その限りで選考への影響はありますが、企業は何も『優秀さ』だけを見て、採用を行っているわけではありません。

例えば、「圧倒的に優秀だけど、素直さが感じられず、とっつきづらい応募者」と、「多少優秀さを感じさせ、教えやすく、人としての可愛げを感じる応募者」がいたとしたら、多くの企業は後者を採用すると思います。圧倒的な地頭の良い個人が一人で何とか出来る仕事もまた、世の中には多くないからです。大多数の仕事は、周囲の人間から学び、周囲の人間に教え、励まし、協働して、はじめて良い結果が出せるものとなっています。

その意味で、司法試験不合格の事実は、企業の選考において、絶対的なハンデとなるものではなく、人柄・コミュニケーション能力その他諸々の要素をアピールすることで十分に挽回可能なものと言えます。

 

➋応募できる求人数への影響

それでは、司法試験不合格という事実は、応募できる求人の数には影響を及ぼさないのでしょうか。

市況により左右されるところもありますが、司法試験合格者≒司法修習生でないと応募できない求人の数は、全国で概ね年間30~50社ほどと、それほど多くありませんので、司法試験不合格により応募できる求人が大幅に減ってしまうことはないと言えます。

(むしろ、年齢・職歴の要素の方が応募できる求人数を大きく左右します。)

 

ただ、金融業界・製薬業界等のコンプライアンス周りの業務が多い業界≒法的規制の厳しい業界では、法務部内において「法令解釈」を行う場面が多く、それゆえか、司法試験合格者の方が業務にマッチしやすいと考える傾向が見られます。そのため、司法試験に不合格だった方は、金融業界・製薬業界等のコンプライアンス周りの業務が多い業界への就職選択肢が減る可能性があります。

 

 

 

司法試験に三振した方に与えられる選択肢

ここまでお話して来ましたように、司法試験に三振した方においては、「年齢」、「職歴の有無」という要素が就職活動の難しさを最も大きく左右します。そして、大多数の法科大学院修了生に職歴がないことを考えますと、事実上、『三振時の年齢』によって、期待できる就職選択肢が変わって来ると言えます。

 

 

■29歳~31歳の方

現在は市況が良いこともあり、平均的な学歴で平均的なコミュニケーション能力があれば、29~31歳職歴なしの方でも、相応の就職活動期間で、どこかしら(東証一部、二部、JASDAQ、マザーズ)に上場している企業の法務部、有名グループ企業の法務部、老舗中堅企業の法務部、上場準備中のベンチャー企業の法務部などに就職できる可能性は高いと思います。

そうは言われても、ネット上では、職歴なしから応募できる法務の求人をなかなか見つけることが出来ないため、にわかには信じられないかもしれませんが、

 

 

◆先人の法科大学院修了生の頑張りを評価されてのリピーター求人

◆先人の法科大学院修了生が出世して部下として新たな法科大学院修了生を採る求人

◆求人サイトで応募者を募ったものの、ご納得のいく採用が出来ず人材紹介会社を頼って来る求人

 

 

などが弊社に集まって来ますので、そうした求人であれば、30歳前後で職歴がなくても、十分内定獲得の可能性があります。

 

 

■32歳~33歳の方

どうしても、30歳前後の法科大学院修了生に比べて競争力が落ちるところはあります。そのため、このくらいのご年齢の方になりますと、「企業内での1年以上の職歴を持っている」又は「学歴の高さ+英語力の高さ(目安としてTOEIC750点以上)の両方を備えている」といった武器がないと、30歳前後の方との競争には打ち勝てなくなる印象です。学歴・職歴の有無は今さら変えられませんので、

 

・英語力を高める

・面接対応力を高める

・30歳前後の法科大学院修了生があまり応募して来ない求人で勝負する

 

といった準備・戦略が必要になります。

ちなみに、30歳前後の法科大学院修了生が応募して来るか否かは、雇用形態(契約社員・紹介予定派遣になると激減)、勤務地(“東京23区内”以外はライバル少、地方になるとさらに少)、会社の知名度・規模感、職種・業務内容(法務業務の量・幅)、年間休日の多さ、残業時間の多さなどから、ある程度推測が出来ると思います。

 

 

■34歳~38歳の方

このくらいのご年齢の方になりますと、「企業内での2年以上の職歴」がない限り、同じ求人に応募して、30歳前後の法科大学院修了生に打ち勝つのは、なかなか難しいと思います。企業内での2年以上の職歴がないということでしたら、『一旦、派遣として企業の法務部で実務経験を積む』という戦略をお薦めしています。

 

実際、企業の選考上、実務経験に勝る武器はありません。このくらいのご年齢の方が、6ヶ月から1年ほどの実務経験を経ますと、むしろ、30歳前後の法科大学院修了生よりも、有利な状況で就職活動を進めて行くことが出来るようになります。

また、年収面でも、職歴なしの30歳前後の法科大学院修了生よりも50万円ほど高い年収提示を受けるケースが多いです。

 

ただ、「経験年数としては一番末端、年齢上は中堅以上」と、迎え入れる側の企業の立場として、組織のピラミッドに当てはめる上での難しさも生じますので、多数の法務部員のいる企業での就職は簡単ではなく、法務部員0~2名くらいの企業で就職するケースが多い状況です。

 

 

■39歳以上の方

基本的には、上述した「34~38歳の方」の戦略と同様になります。ただ、よりご年齢を重ねていて、さらに「そのご年齢で実務経験がない(少ない)」という点を懸念する企業が相当数あるため、就職はより困難になり、求められる実務経験年数も“原則2年以上”と長くなる傾向があります。

 

派遣先で仕事ぶりを認めてもらい正社員登用される状況を作るのが一番スムーズですが、より就職確率を高めるという観点では、近隣の求人に加え、地方求人への応募も検討していった方がよいかもしれません(地方には法務経験者が少ないため、実務経験があること自体が競争優位性になります)。

 

また、就職選択肢を増やすという観点からは、働きながら(!)、簿記3級以上や社会保険労務士等の資格を取得し、法務に加えて、経理・社会保険周りなどの管理部門全般を担当できる人材として、応募者の少ない中小企業の求人に応募して行くというやり方もあると思います。さらに、法律上の設置義務のある「宅地建物取引士」の資格を取得しておくと、資格があるというだけで、選考上優遇されるケースがありますので、そちらも働きながら(!)勉強するのもよいと思います。

ちなみに、ここで「働きながら」と強調した理由は、就職がなかなか決まらない状況下で、実務経験を積まずにひたすら資格試験の勉強にのめり込む法科大学院修了生が少なくないためです。基本的に、それを持っているだけで就職に役立つ資格というのはなく、何かしらの実務経験と相まって効果を発揮する資格がほとんどですし、資格勉強にのめり込んでいる間に、実務経験を積まないまま年齢だけが上がって行くというリスクにさらされることになります。

そのため、『何か資格の勉強をするときには働きながら』というのを鉄則にしていただけたらと思います。

 

 

 

【番外編】法律事務所のパラリーガル職での就職を目指す

企業就職とは別の道になってしまいますが、法律事務所をはじめとする士業の事務所は、企業と比較して、年齢に対する考え方が緩やかなことが多いため、年齢が高めの方でも、法律事務所のパラリーガル職で就職できる可能性があります。

その際、やはり、アルバイトでもパラリーガルとしての実務経験を積んでいた方が圧倒的に有利になりますので、まずは、法律事務所のパラリーガルのアルバイトの口を見つけ、そこで働きながら正社員の道を模索する(アルバイト先の事務所での採用を目指す+他の法律事務所の正社員求人に応募する)ことをお薦めしております。

 

 

 

 

 

終わりに

ここまで、司法試験に三振した方に対する企業の評価、三振してからの就職選択肢や就職戦略についてお話して来ました。

 

キャリアの成功の定義は、各人の中に持つべきものだと思いますが、司法試験に三振してから、超有名大手企業の法務マネージャーまでキャリアアップした方、上場企業の法務部長になった方、専門性の高いスキルを身に着けて40代で年収1,000万円に届いている方など、周囲がうらやむ地位・年収を手に入れている方は実は少なくありません。

 

ご自身がどんな人生を送りたいか・何を成し遂げたいか・どんな人間になりたいかを思い描き、ご自身の現在の市場価値と真摯に向き合いながら、実現可能で有効な戦略を練ってそれを実行する。これを繰り返すことで、司法試験の三振後にも、きっと、充実したキャリアを送ることが出来ると思います。

 

弊社でそのためのお手伝いが出来ると思いますので、司法試験に三振となった後の進路でお悩みの方は、ぜひ弊社を頼って来てください。

 

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『そもそもの話、「就職活動」とは何か?』

『法科大学院修了生の就職活動と年齢』

『法科大学院修了生の就職進路』

 

 

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

ページトップへ