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企業法務とは

法務部で働きたい法科大学院修了生がアピールすべき強みとは?

『法科大学院修了生の武器』 ~法務実務で生きる強み~

近年、司法試験の合否に関わらず、企業の法務部に就職する法科大学院修了生が増加しています。

その理由としては、

 

・弁護士数の増加による弁護士間の仕事獲得競争の激化を受け、企業内で安定的に働きたいというニーズが増したこと

・ときに激務となる法律事務所での勤務よりも、残業時間がそれほど多くない企業内で働き、ワークライフバランスを追求したいというニーズが増したこと

・未経験の法科大学院修了生・司法修習生が応募できる企業の法務求人が増したこと

 

などが考えられますが、特に、法務求人の増加は顕著で、この5年間で求人数が倍増し、10年前と比べても10倍ほどに増加している状況です。

 

このように、法科大学院出身の法務担当者が急激に増えていますが、法科大学院で学んだこと、司法試験受験で培った知識・スキルはどのように法務実務に生かされて行くのでしょうか。採用面接時のアピールポイントを整理する意味でも、入社後の成長の方向性を固めるという意味でも、法科大学院修了生が出来ること/出来ないこと、得意なこと/得意でないことを明確にしておくのは有益だと考えますので、以下に忌憚のない私見を述べます。

 

■法科大学院・司法試験受験で培った法律知識?

普段、企業への就職を目指す法科大学院修了生の方のお話を伺っていると、「今まで培った法律知識を生かして企業の法務部で働きたい」とおっしゃる方がとても多い印象です。また、企業の面接の際に「ご自身の強みは?」といった質問を受けた際にも、“法律知識”と答える方も多いと聞きます。

では、法科大学院修了生が培った法律知識は、法務実務でどのくらい有効なのでしょうか。

経験上、法務業務で法律知識を使う主な場面は、

 

 

➊ 契約書の作成や審査の際、法令に違反した条文がないかをチェックする場面

(民法内の強行法規、独禁法、下請法、景品表示法、不正競争防止法、消費者法、労働法etc.)

➋ 契約書上で特に取り決めがない場合に、どのような法的効果が発生するかを一般法の規定から検討する場面

(ex.準委任型の契約で費用負担についての取り決めがなければ、民法650条により委任者負担となる)

➌ 他部署の人間からの法律相談の際に、問題となる行為・取引等の適法性を判断する場面

(独禁法、下請法、景品表示法、不正競争防止法、消費者法、労働法etc.)

➍ コンプライアンス対応業務の際に、条文の射程がどこまで及ぶかを判断する場面

(独禁法、下請法、景品表示法、不正競争防止法、消費者法、労働法etc.)

 

 

といったところです。それに対して、法科大学院修了生が持っている法律知識を具体的に挙げると以下のようになると思います。

 

 

・憲法、民法、刑法、会社法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、選択科目の『条文知識』

・憲法、民法、刑法、会社法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、選択科目の『個別条文に関する判例・学説の知識』

 

 

こうして見比べてみると、法科大学院修了生が保有している法律知識と、法務業務で求められる法律知識の領域は、実際はそれほど重なっていないことがわかると思います。そのため、法科大学院修了生の「自分の法律知識を生かして法務業務を行いたい」という趣旨の発言は、面接官役を務める法務担当者などから、しばしば、実務とのミスマッチを感じさせる発言の代表例として挙げられています。

 

 

 

■法科大学院・司法試験受験で培った論理的思考力?

法科大学院修了生の自己PRとして「論理的思考力」を挙げる方も少なくありません。論理的思考力とは、

 

 

「推論」をもとに「結論」を導き出す思考力

出典:思考力とは|論理的思考力と多面思考力を高める【頭の使い方】の手順

 

 

と言われています。では、法科大学院修了生は世の中一般のビジネスパーソンと比べて、この「論理的思考力」が高いと言えるのでしょうか。

 

実際、法科大学院修了生は論文試験において、裁判官が判断を行うような“答えのない難題”に対し、複数の判断枠組みから一つを選択し、そこに事実を当てはめて結論を導き出すという作業を頭の中で行い、文章としてアウトプットしています。ただ、それらの思考作業は、ある程度十分な情報がある(事実が確定している)前提で、起こった出来事を整理し評価するものです。そこには、原則として、「推論」という概念は入って来ません。

一方で、法務担当者を含む、ビジネスパーソンが行う判断は、情報が少ない(事実が確定していない)中で説得力のある仮説を打ち立て、それを元にビジネスを進めて行くというものです。その意味では、「推論」することが大前提としてあります。

 

こうして見てみると、法科大学院修了生が論文試験に向けて鍛えて来た思考力と、一般的にビジネスパーソンに求められる「論理的思考力」は別物であると言うことが出来ます。

 

実際、普段、法科大学院修了生を指導していても、少ない情報から何かを推察することに苦手意識を有している(十分な情報が揃わないと不安になる)方が多い一方で、豊富な情報の中から物事を抽象化(抽象的な問題に分類)し、結論を判断することを得意としている方が多い印象です。

これらの2つの能力は、必要とされる場面が異なるため、優劣で語れるものではありませんし、もちろん、どちらを備えている人物が地頭が高いということも言えないと思います。

ただ、少なくとも、「法科大学院修了生は論理的思考力が高い」と安易に自分にレッテルを貼り、アピールすることは得策ではないと考えています。

 

 

■法科大学院・司法試験受験で培った文章力?

法科大学院修了生の武器として他に挙げられるのが「文章力」です。“文章の説得力”を強く意識しながら膨大な量の論文を何年にもわたって書き続けた日々の賜物か、実際、高い文章力を有する人の割合は、他の母集団と比較しても高いと感じています。

 

他方で、「情報格差のある相手に対して、目線を揃えて、理解しやすい文章を書く」という点に苦手意識を持つ方もまた少なくない印象です。これまでは、法科大学院の教授や司法試験の採点官という自分よりも知識レベルが高い人を文章の読み手として想定していたことが主な原因だと考えています。

 

しかし、法務業務では法律知識が少ない他部署の人間に対して、法律専門知識を解説する場面が多々あります。

純粋な文章力に加えて、読み手の知識レベルを認識して目線を揃えた文章を書くスキルが必要になります。

 

 

■法科大学院修了生の真の強み

個人的に、法科大学院修了生の一番の強みは、「法令や法的文書を素早く読み込み、理解し、活用する力」だと感じています。

法務業務を行っていると、どうしても、扱ったことのない法令を解釈しなければならない場面があります。その際、大量の条文・法的文書を読み込んで来た法科大学院修了生であれば、未知の法令に対しても、条文を読み、解説書を読み、関連判例を読み、それらから得られた情報を元に、8割から9割方正しいと考えられる解釈を導くことが出来ます。

こうした、法律分野における情報収集のスピード・精度、自前で相当程度確かな解釈に辿り着ける法的スキルというのは、長年法律を勉強して来た方しか手に出来ないものだと思います。

 

また、法科大学院修了生にはお馴染みの“利益衡量”という考え方をベースとした判断力も武器になると思います。法務業務では、リスクとベネフィットが混在する難しい事象に対して判断を行わなければならない場面が多々あります。その際に、丁寧な“利益衡量”を行うことで、説得力のある判断を行うことが出来ます。

 

加えて、要件事実の理解に基づく訴訟の流れの予測が出来る点も強みになると思います。法務業務では、リスクの検討の際に、紛争からの敗訴リスクを検討する場面が多々ありますが、要件事実に対する深い理解があることで、相手がどのような主張を行う可能性があるのか、その主張が成立するためにどのような証拠が必要でその証拠を示せる可能性がどのくらいあるのかといった点から、訴訟の趨勢を予測し、敗訴リスクをより精緻に検討することが出来ます。

 

以上、法科大学院修了生が法務業務で生かせる武器をご紹介しました。

今まで学んで来たことを入社後どのように生かせるかを語れることは、法科大学院修了生の就職活動のカギとなる部分ですので、ご自身の強みを言葉で語れるよう、事前に整理しておくといいと思います。

 

 

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『リーガルビジネススクールONLINE(法務担当者が作る法務の教育メディア)』

『企業法務ナビ(日本最大級の企業法務情報サイト)』

 

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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